AI Paper English F.o.R.

人工知能(AI)に関する論文を英語リーディング教本のFrame of Reference(F.o.R.)を使いこなして読むブログです。

ResNet | Abstract 第1段落 第1文

Deeper neural networks are more difficult to train.

 

Kaiming He, et al., "Deep Residual Learning for Image Recognition"

https://arxiv.org/abs/1512.03385

2015年のILSVRCで1位になったディープラーニングモデルであるResNetの論文の"Deep Residual Learning for Image Recognition"のAbstractの第1段落の第1文について、英語リーディング教本のFrame of Reference(F.o.R.)を使って英文構造を解読します。

 

f:id:AI-paper-FoR:20190501193718p:plain

 

「より深いニューラルネットワークは、訓練することがより一層難しい。」

 

一見短くて簡単な英文ですが、実は特殊な英文です。なぜなら、この文はF.o.R.の基本に従わない英文だからです。つまり、英語リーディング教本および英語構文のエッセンス Stage-1に記載されているF.o.R.によって8割の英文は正確に構文を把握することが可能とされていますが、この英文にはその範囲外である2割に該当する構文が用いられています。

 

具体的には、この英文では「目的語が足りない不定詞」が使われており、英語構文のエッセンス Stage-2で説明されている内容です。ここではto trainの目的語が足りません。主語であるdeeper neural networksがto trainの意味上の目的語O'になります。difficultは形容詞で補語ですので、to trainは形容詞を修飾する不定詞に該当し、

 

S is 形容詞 to -

Sは、-するという点で形容詞が表す性質を持っている

 

という意味を表します。したがって、より厳密に訳すると、

 

「より深いニューラルネットワークは、訓練することがより一層難しいという性質を持っている。

 

というように、ネットワークが深くなるほど学習が難しくなるという一般的な性質について論文著者がAbstractの冒頭で一言触れておきたい一文であることが伺えます。

 

また、主語がto - のO'(=意味上の目的語)になるタイプですので、仮主語のItを使って次のように文を書き換えることが可能です。この形はF.o.R.のカバーする範囲の表現です。

 

f:id:AI-paper-FoR:20190501195524p:plain

  

「より深いニューラルネットワークを訓練することはより一層難しい。」

 

このように短い文でかつ簡単な単語しか使われていない英文でも、しっかり英語構文を理解しようとすると実は意外に難しい場合があります。なんとなくでも意味は理解できてしまう英文だったと思いますが、理解をもう一段正確なものへと近づけるためには、F.o.R.の基本をマスターしておく価値はあるかと思います。つまり、F.o.R.の基本を身につけているからこそ、F.o.R.のカバーする範囲の8割に該当しない英文の特殊性に気がつき正確に読むことができるようになると薬袋先生も著書でおっしゃっております。この英文はそれを示すためには非常に良い例文であったと思います。

 

ディープラーニングの論文として非常に著名なResNetの最初の短い一文が、F.o.R.というものさしを使って見ると、このような特殊な英語構文から始まっているという新たな発見・気づきを得られました。その点で、とても興味深い英文の一つだと思います。

 

ResNetの概要については、画像認識 (機械学習プロフェッショナルシリーズ)のChapter 6 (畳み込みニューラルネットワーク)に説明があります。

 


ai-paper-for.hatenablog.com

  

 

薬袋善郎先生の公式ウェブサイト 

http://minai-yoshiro.com