AI Paper English F.o.R.

人工知能(AI)に関する論文を英語リーディング教本のFrame of Reference(F.o.R.)を使いこなして読むブログです。

SSD | Abstract 第5文

SSD is simple relative to methods that require object proposals because it completely eliminates proposal generation and subsequent pixel or feature resampling stages and encapsulates all computation in a single network.

 

Wei Liu, et al., "SSD: Single Shot MultiBox Detector"

https://arxiv.org/abs/1512.02325

物体検出タスクにおいて、YOLOよりも高速でしかもFaster R-CNNと同等の精度を実現したSSDの論文である"SSD: Single Shot MultiBox Detector"のAbstractの第5文について、英語リーディング教本のFrame of Reference(F.o.R.)を使って英文構造を解読します。

 

 

f:id:AI-paper-FoR:20190805215321p:plain

 

「SSDは、提案生成やその後のピクセルや特徴量のリサンプリング段階を完全になくし、全ての計算を単一のネットワークにカプセル化するため、物体提案を必要とする手法と比較して簡素である。」

 

この文の解釈については困ってしまいました。なぜなら、この文はF.o.R.のルールだけから解釈しようとすると、英語構文的にうまく解釈できない英文だからです。もし正しい解釈の仕方がわかる方がいらっしゃいましたらコメントいただけますと嬉しいです。

 

今のところ、この記事の最後に記載したように、"relative to"は熟語であり、一つの前置詞として捉えるのが一番良いと思っています。

 

解釈に困った箇所は、冒頭の"SSD is simple relative to ..."です。「SSDは...に比べてシンプルである」と言っているのだろうと意味的には理解できるのですが、relativeがsimpleを修飾する構造を成立させることができないことに気がつきます。

 

まず、形容詞の働きは、名詞修飾・補語であるので、形容詞が形容詞を修飾することはできません。ここでは、形容詞relativeが形容詞simpleを修飾することはできません。

 

このことは、英文法をチェックできるGrammarlyで確認しても「形容詞が形容詞を修飾することはできないので、副詞に変更するように」という警告が出ます。ただ、grammarlyの言うようにsimpleをsimplyにしてしまうと、文の意味として合わないと思います。

 

f:id:AI-paper-FoR:20190506135713p:plain

 

そこで、relativeが副詞なのではないかと疑ったのですが、relativeは形容詞か名詞しかないようです。

 

次に、simpleが名詞で使われているのではないかと疑ったのですが、名詞のsimpleはweblioによると「無知な人、愚か者」という意味ですので、意味が通りません。

 

しかし、goo辞書によると、simpleは稀に名詞で「単純なもの;単一体,単体」という意味があるそうです。そうすると下図のようになり、"SSD is simple relative to ..."は「SSDは...に比べて単純なものである」ということで構文も意味も通りそうな感じも出てきます。

 

f:id:AI-paper-FoR:20190805215508p:plain

 

しかしながら、上記のようにある辞書では載っていて、ある辞書には載っていないような稀な表現を、技術系の論文であえて用いている可能性は低いのではないかと思います。

 

逆に、simpleが形容詞、relativeが名詞で「簡素な親類の人」のような表現も考えたのですが、意味的に不自然なことと、その場合は"SSD is a simple relative"と言うように不定冠詞のaを入れないと構文的に不成立だと思います。このことは、上記で検討したsimpleを名詞として考えた場合も該当すると思います。

 

色々考えましたが、今回は英文をそのまま解釈しようとすると、F.o.R.のルールだけでは説明がうまくできない英文です。ただし、F.o.R.という一つの物差しを使って考えると説明が難しいと言っているだけで、この文の構造が間違っていると言っているわけではないということはご理解いただきたいと思います。

 

続いて、どのように解釈すると良いかについて考えていきます。

 

例えば、relativeをcomparedに置き換えることで、英語構文的にも意味的にも成立します。ここでのcomparedは裸の過去分詞で、前の働きは副詞です。後ろの働きは-③です。そのようにすると、下図のように、relativeの前後をうまくつなぐことができます。

 

f:id:AI-paper-FoR:20190805215607p:plain

 

「SSDは、提案生成やその後のピクセルや特徴量のリサンプリング段階を完全になくし、全ての計算を単一のネットワークにカプセル化するため、物体提案を必要とする手法と比較して簡素である。」

 

また、Macmillian Dictionaryには、"relative to"はPhraseで"compared with"の意味であると記載があるので、そっくりそのまま置き換えてしまうこともできます。したがって、"relative to"を見たら"compared with"と心の中で置き換えて、"relative to"の品詞自体は無視することで正しい文として解釈することができます。

 

f:id:AI-paper-FoR:20190805215647p:plain


色々考えましたが、最後に今のところ一番すっきり解釈できる方法を示します。

 

上記の二点を踏まえると、下記のようにすっきり図示することができます。

 

f:id:AI-paper-FoR:20190805215713p:plain

 

F.o.R.の知識だけをスタートにして解釈しようとしたところ、このようにあれこれ考えることになってしまいました。今回のrelativeのように、品詞を真面目に捉えようとしすぎて解釈の難しい場合は、熟語として使用されている可能性を考えた方が良いと思います。

 

今回の英文を<F.o.R.だけではうまく解釈できない可能性のある英文>としてタグ付けしているのは、「"relative to"は"compared with"と同じ意味」や「"relative to"は熟語であり、一つの前置詞として捉える」といった知識が別途必要になることに最初は気がつかなかったからです。それらを知っている場合は、F.o.R.の知識とともに読めると思います。

 


ai-paper-for.hatenablog.com

  

 

薬袋善郎先生の公式ウェブサイト 

http://minai-yoshiro.com